シーシャは世界中で吸われていますが、「どこの国で、どのメーカーが人気か」はまるで違います。
ドバイのカフェで出てくる一台と、モスクワのシーシャバーの一台と、ベルリンのラウンジの一台は、味の設計思想からして別物です。そして日本には、そのどれとも違う独自の事情があります。
この記事では、国ごとの「人気の中身」を、市場データとブランドの成り立ちから読み解きます。
まず市場全体の話:シーシャは中東のもの
意外に思われるかもしれませんが、シーシャタバコ市場の規模は中東・アフリカが全体の約70%を占めています。ヨーロッパが約15%。日本を含むその他の地域は、残りを分け合っている格好です。
ブランド単体で見ると、Al Fakher(アルファーヘル)が世界シェア約13.3%でトップ。世界中に張り巡らせた流通網が強みで、上位3社を合わせても約20%なので、Al Fakher一社がいかに突出しているかが分かります。
ここで大事なのは、市場が大きい国と、味のトレンドを作っている国は別だということです。順に見ていきます。
🇦🇪🇪🇬 中東・北アフリカ ── 生活の中にある定番
人気:Al Fakher / Nakhla
この地域では、シーシャは「特別な体験」ではなく日常の一部です。カフェで新聞を読みながら、家族と食後に、という使われ方をします。
だから人気メーカーも、奇をてらわない定番が強い。Al Fakher はUAE発で、甘さと煙量のバランスが良く、誰が作ってもそこそこ美味しくなる安定感があります。エジプトの Nakhla は1913年創業の老舗で、クラシックで素朴な味。ダブルアップル(アニス風味の二重リンゴ)が定番中の定番です。
この地域の価値観は「毎日吸える軽さ」。強烈なキックや凝った香りは、むしろ求められていません。
🇹🇷 トルコ ── 甘く、分かりやすく、観光と結びつく
人気:Adalya / Dozaj
トルコは中東と欧州の中間にあり、味の設計もちょうど中間です。Adalya はフルーティで甘く、煙量も豊富。世界的ヒットとなった「Love 66」を生んだブランドです。Dozaj はトルコ産の葉を使い、アイス系(清涼感のある銘柄)が充実しています。
特徴的なのは観光との結びつき。UAEやトルコのようなインバウンドの多い地域では、ホテルやレストランがブランド名を前面に出した「シーシャメニュー」を用意し、客単価を上げる手法が定着しています。ブランドが商品として消費者に認識されているのがこの地域の面白いところです。
🇷🇺 ロシア ── 今のトレンドを作っている国
人気:Darkside / Must Have / DUFT / BlackBurn / Starline
市場規模では中東に及びませんが、2010年代後半以降の味のトレンドは、ほぼロシアが作っています。ダークリーフ、高濃度、緻密な香料設計——今「新しい」とされるものの大半がここ発です。
ロシア市場の特徴は、強度帯の棲み分けが明確なこと。「軽い/中/強い」がブランドやラインで整理されていて、客が自分の好みの濃さを選べる構造になっています。
| ブランド | 設立 | 強さ | 立ち位置 |
|---|---|---|---|
| Darkside | 2015年 | 中〜強 | ニジニノヴゴロド。濃色葉のコクと熱耐性が軸 |
| Must Have | 2018年 | 中 | 7か国のバーレーを選抜ブレンド。品質が安定 |
| DUFT | 2016年 | 中〜強 | 未洗浄のバージニア+バーレー。熱耐性と濃度を両立 |
| BlackBurn | 2019年 | 中〜強 | 3種のバーレー使用。強度・熱耐性・持続を訴求 |
| Starline | 2022年 | 軽 | Daily Hookahから改名。初心者向けの軽量ライン |
ちなみに Starline の改名はEUの規制対応が理由とされています。国際展開するうえで、規制がブランド名にまで影響を及ぼす——シーシャがすでに立派な「産業」であることが分かる話です。
🇩🇪 ドイツ・ヨーロッパ ── 軽さと"モノ"へのこだわり
人気:Holster / Rebel / O'S / Hookain
ヨーロッパのシーシャ文化は、ロシアとは対照的に軽くてクリーンな方向に進みました。癖が少なく、長く吸っても疲れない設計。Rebel は軽くて吸いやすく、O'S はナチュラル寄りで癖がない。Hookain は現代的でトレンド感のある味づくりが持ち味です。
そしてドイツで特筆すべきは、フレーバーよりも「器具」のブランドが強いこと。Steamulation、AMY DELUXE、MOZE、DSCHINNI、AEON、OCEAN Hookah、OCTOPUZ——世界のハイエンド機材の多くがドイツ製です。ステンレスやクリスタルガラスを使った精密な作り込みは、いかにもドイツらしい。
「味はほどほどに軽く、道具は徹底的に良いものを」——これがヨーロッパの美学です。
🇺🇸 アメリカ ── エンタメとしてのシーシャ
人気:Fumari / Starbuzz / Azure / Tangiers / Trifecta / Social Smoke
アメリカのブランドは、味づくりが完全にエンタメ志向です。ブルーベリーマフィン、チョコレートケーキ、セックスオンザビーチ——お菓子やカクテルを再現する方向に振り切っています。
それでいて層は厚く、Tangiers のように「公式推奨の詰め方がぎゅうぎゅう詰め」という極端な上級者向けブランドや、Trifecta のようにダークとブロンドの両ラインを展開する器用なブランドも同居しています。Social Smoke は煙量重視で、クラウド(大量の煙)を楽しむ文化を支えています。
🇯🇵 そして日本 ── どこにも似ていない
日本のシーシャシーンは、世界的に見てもかなり特殊です。
第一に、特定の国のブランドに偏っていません。中東の定番も、ロシアのダークリーフも、アメリカのスイーツ系も、ドイツの軽い系も、同じ店に並んでいます。これは「自国のシーシャ文化」を持たなかったからこそできた、いいとこ取りです。
第二に、ミックスが前提であること。中東では単品で吸うのが普通ですが、日本では3〜4種類を配合してオリジナルの一台を作るのが当たり前になっています。銘柄の知識より「組み合わせの設計力」が問われる——これは日本独自の発展です。
第三に、ノンニコチンの選択肢が異様に充実していること。タバコを吸わない層がシーシャ人口の中心にいるという、世界的には珍しい構造です。
なぜ国によってこんなに違うのか
1. シーシャの位置づけが違う
中東では日常の習慣、欧米では夜遊びの一部、日本ではカフェ的な滞在。求められる「重さ」がそもそも違います。
2. 規制が違う
EU規制への対応でブランド名が変わる(Starline)ように、税制や表示規制が製品ラインそのものを左右します。
3. 製造インフラが違う
ロシア勢が伸びたのは、国内に葉の加工から充填までの設備が揃っていたから。Must Have がイタリア製設備でトースト処理をするように、設備が味を決めます。
4. 客層が違う
日本のシーシャ人口は「普段タバコを吸わない20代」が中心。この層に向けて作ると、必然的にノンニコチンと軽い味が主役になります。
当店の考え方:国で選ぶのも面白い
当店では20ブランドを扱っていますが、これは「国ごとの思想を全部置いておきたい」という考え方です。
- 今日は中東の定番を素直に(Al Fakher / Nakhla)
- 今日はロシアのガツンと(Darkside / Musthave / Sebero / Deus)
- 今日はアメリカの甘いやつを(Starbuzz / Azure / Tangiers / Trifecta / Social Smoke)
- 今日はドイツの軽いやつで(Rebel / O'S / Hookain)
「国縛り」でオーダーしていただくのも歓迎です。「今日はロシアで」と言われれば、それだけで方向性は決まります。ワインを産地で選ぶのに近い楽しみ方です。
函館・大門で、世界一周してみてください。